―「つかまえて、にげたい」金魚が語りかけた夜―
夏の夜、屋台の灯りがゆれるなかで、不思議な金魚と出会った少年「ドル」。
それはただの金魚すくいではなかった――彼の心に一生消えない夏の記憶を残す出来事だった。
⛩ 1人ぼっちの夏祭りで
盆踊りの音、花火の炸裂音、屋台の喧騒──
そんな中、少年ドルは1人で歩いていた。
仲の良い友達は誰も見当たらず、家族もいない夜だった。
手の中には汗ばんだ五百円玉がひとつだけ。祭りの喧騒の中、どこか心細さを感じながらドルは歩いていた。
ふと目に留まったのは、赤提灯がぼんやりと揺れる「金魚すくい」の屋台。
古びた木の台、静かな水面──周囲のにぎやかさとは裏腹に、そこだけ時間が止まっているようだった。
🐟「たすけて」──赤い金魚の声
店番の老人がニヤリと笑う。
「坊主、この中に”特別な金魚”がいる。見つけてごらん」
挑発めいた言葉に導かれるように、ドルはすくい網のポイを握りしめた。
水槽の中を覗き込むと、ひときわ赤く輝く金魚がふわりと泳ぐ。
その瞬間、金魚が「こっちを見ている」ことに気づいた。
そして、口を動かした。
「……たすけて」
ドルの背筋に、ゾクリと冷たい感覚が走った。
「金魚が……しゃべった……?」
心の中で戸惑いながらも、なぜか逃してはいけないと感じた。
🎯 最後のポイ、運命の一瞬
最初の1回目──失敗。
2度目も、ひらりと金魚は逃げる。
残るは、最後の1枚のポイ。
「助けるから、信じてつかまって……!」
祈るようにすくったその瞬間、赤い金魚は自らポイの上に乗った。
やさしく、でも確かな意志を持って。
「やった……!」
そっと容器に移すと、金魚は目を閉じた。
そして、もう一度だけ目を開いて、**「ありがとう」**と言った気がした。
🌕 翌朝、水槽に残されたもの
家に持ち帰ったドルは、金魚鉢に赤い金魚を入れて眠りについた。
しかし翌朝──
金魚鉢には金魚の姿がなかった。
代わりに、一枚の金色のウロコと、小さな紙切れが浮かんでいた。
そこには、こう書かれていた。
「自由になれました。
あの夜、君に出会えてよかった。──アカネ」
🎇 ドルの夏は、終わらない
その後、ドルは毎年、夏祭りに足を運ぶようになった。
けれど──あの屋台も、あの老人も、二度と見つからない。
ただひとつ、夜風が吹いて金魚すくいの水音が聞こえるたび、
アカネの声が心のどこかで響く気がする。
🐠 あなたの夏祭りにも、奇跡が訪れるかもしれない
もしあなたが夏祭りで、ひときわ赤く輝く金魚に出会ったら──
それは、アカネかもしれない。
そして今度は、あなたの手で、彼女を「自由」にしてあげてほしい。
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