Ctrlの牢獄
──ドルが最後に押したのは、保存か、それとも削除か。
「……今度は“Ctrl”キー、か」
Alt世界から“彼”を逃がしたあと、僕――ドルは、再び目を覚ました。
しかしそこは、あの時の世界ではなかった。
チカチカと点滅する世界の端。
コマンドラインのような空間。
そして、不穏な静寂。
「ようこそ、“Ctrlの牢獄”へ」
現れたのは、深紅のフードを纏う謎の少女。
名をリル。この空間の“管理者”を名乗る存在だった。
■ Ctrlとは「支配」、そして「凍結」
リルは淡々と語る。
この世界において、キー入力は運命そのものだと。
Altは「選択」
Shiftは「変化」
そしてCtrlは、「支配」と「固定」
「あなたが“Escape”で終わらせようとした時点で、Ctrlは作動していたの。逃げた“彼”も、元を辿ればあなたが“Ctrl+C”した記憶の断片。あなたが最初に“コピー”した、可能性の一部よ」
「俺が……Alt世界を起動した起点……?」
リルは微笑む。
だがその笑みは、冷たく凍りついたように見えた。
■ “Ctrl+Cされた記憶”、そして“Ctrl+Vされた世界”
リルが差し出した古びた端末に、映像が流れる。
そこには過去のドル――PCを操作する自分の姿が映っていた。
この一文をCtrl+Cしたことで、すべてが始まったのだ。
リル:「“Alt世界”はあなたのコピーでできている。“彼”はペーストされたあなた。今、あなたは“コピー元”。どちらが本物だと思う?」
「どちらも……俺だ。だが、そいつが“俺の意思”で動いているなら、もう俺の命令なんて関係ない」
■ Ctrl+Zへの反逆と証明
リルに導かれ、ドルは古びたターミナルルームへ。
そこには“彼”が映っていた――Alt世界で脱出したもう一人の自分。
現実の“ドル”が、コピー先である“彼”をCtrl+Zで削除しようとしていた。
だが、躊躇いが生まれる。
「それでいいの?“Ctrl+Z”は“Undo”――存在の取り消し。
でも今、あなたが押すべきは“Ctrl+S”よ」
リルが差し出したのは、キーを剣に変えた武器だった。
ドルは意志を込めてタイピングを始める。
打鍵と共に、空間が光で満たされていく。
そして、最後に打ち込んだのは――
「Ctrl+S」
■ エピローグ:「保存された意思、削除されぬ自我」
白い空間の中に、ひとつのメッセージが浮かぶ。
静けさの中に、リルの声が響く。
「さあ、ドル。次に“Delete”を押すのは、あなた自身よ」
そしてドルは、キーボードにそっと手を添えた。
🎴 この物語は「Alt世界三部作」完結編
第1章:「Right Corner Man」
第2章:「Shiftキーの契約」
第3章:「Ctrlの牢獄」
次の物語のキーは**「Backspace」か、それとも「Insert」**か──?
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