ドルとShiftキーの契約:反逆の始まり
第一章:壊れたキーと沈黙の夜
それは、ある冬の夜のことだった。
ドルは、いつものように深夜の静まり返った部屋で、キーボードをパチパチと叩いていた。
文章を書く。思考を構築する。笑えるワードをひねり出す。
そのすべてが、彼の「Shiftキー」にかかっていた。
だが――その日、Shiftキーが押せなくなった。
押しても反応しない。大文字にならない。感情のアクセントが失われた。
「…これは、“契約解除”のサインか?」
ドルはそうつぶやき、目を細めた。
第二章:Shiftの魂との対話
パソコンの画面が一瞬だけ揺れた。
その瞬間、キーボードの奥から、重低音の声が響く。
「我はShift。お前の感情を増幅し、強調してきた存在だ。」
ドルは動じない。
コーヒーをすすりながら答える。
「そうだな。“!”も“?”もお前がいないと始まらない。」
「だが、お前は使いすぎた。無駄に強調し、無理やり笑わせようとし、我を疲弊させた。」
Shiftキーは静かに語った。
その言葉には、長年酷使された部品としての悲哀と、誇りがあった。
ドルは、キーボードを両手で包み込むようにして言った。
「俺とお前は、言葉で人を笑わせるためにここまで来た。ならば……もう一度、契約を結ぼう。」
第三章:再契約と、新たなキーの目覚め
Shiftキーは沈黙した。
次の瞬間、パチン、とキーが軽く跳ねた。
まるで「もう一度だけ付き合ってやる」と言わんばかりに。
その夜から、ドルのタイピングはより鋭く、より研ぎ澄まされた。
Shiftは、選ばれた時にのみ押され、文に命を吹き込む。
笑わせるだけではない。
感情の波を生む。抑揚を、緊張を、そして解放を演出する“神器”として。
エピローグ:最後の一文に宿る力
「だから言ったろ、“SHIFT”は逃げないって。」
この一文の“SHIFT”には、何か特別な力が込められている。
強調ではない。叫びでもない。ただの「真実」だ。
ドルは、今も深夜にキーボードを叩き続けている。
そしてShiftキーは、静かに、しかし確かに、彼の隣にいる。

コメント